写真:津田直、四半世紀を経て緑に埋もれるアクロス福岡
2020-8月号 AUGUST
特集08 2050年 気候変動を超えて
当初の特集案は「ゼロカーボン社会」に関するものであった。IPCCがパリ協定において努力目標とした、「気温上昇を産業革命前より1・5℃以内に収める」を実現するには、2050年以前のゼロカーボン社会の実現が必要とされる。2050年まであと30年しかない。しかもゼロカーボン社会は地球全体での目標であるから、先進国としてはさらに進めてどれほどカーボンネガティブにできるかが目標となる。
はたして実現可能なのだろうか。建築や都市への期待が大きいことは、すでに各所で述べられている。ゼロエネルギービル(ZEB)やゼロエネルギーハウス(ZEH)、さらにはゼロエネルギー地区(ZED)も技術的には不可能ではない。2018年の新築戸建て住宅に占めるZEHの割合はZEHシリーズ合計で既に13%を超えており、注文住宅に限れば20%がZEHとして建設されている。一方で、建物をZEBやZEHにしたとしても、エネルギー消費量は大きく変わらないという報告もある。環境性能がよくなることで浮いた光熱費は、別の活動に振り向けられて、削減分が相殺されるという論だ。いずれにしても、これらの設計や計画は、将来にわたって現在の働き方やライフスタイル、生活様式が継続することを前提としている。
このような状況でCOVID-19が流行したのは偶然とは思えない。
2050年までにカーボンネガティブを達成し、人類の存続すなわちサステナブルな社会へと日本、そして世界を変えるにはどうすればよいのか。対象はエネルギーやカーボンにとどまらず、水や食料、空気や緑、素材に及ぶだろう。建築や都市をつくること、生活するという活動を通じ、周辺環境、ひいては地球環境が改善される世界を目指すべきだ。
第1部では2050年以降の社会像や生活像含め、これからの建築像や都市像を描いていただいた。第2部では若手の実務者、研究者による2050年に向けた取り組みを取り上げた。
[高口洋人・川島範久・板谷敏正・中川純・中川浩明・能作文徳]
[目次]
000 | 植物のように建築を育てる AIビジネス 板谷敏正 |
002 | 特集08 2050年 気候変動を超えて |
003 | 論考1 ポスト成長社会のデザイン―気候変動と パンデミックを超えて 広井良典 |
007 | 論考2 Navigating Climate Change: Shifting How We View Buildings Raymond J. Cole |
011 | 論考3 環境・エネルギーインフラの50年と将来 金島正治 |
015 | 論考4 気候危機時代に技術とどう向き合うべきか 羽鳥達也 |
017 | 論考5 自然環境と共生する暮らし方 ―住宅ゼロカーボン化のもう一つの方向性 中島裕輔 |
019 | 論考6 日本の「ネットゼロウォータービルディング」に向けて 小瀬博之 |
021 | 「はだかの箱」から 「毛深い家」へ 富田玲子 |
022 | 東南アジアにおける 低炭素住宅の国際協力 久保田徹 |
023 | 1年間の留学以上に 価値のあるもの 秋元瑞穂 |
024 | 建物の拡張と都市空間の再編 戸田穣 |
025 | 写真における「空」の表現 "Blanc/Black" 八木夕菜 |
026 | 北海道における 環境系の建築教育の取り組みについて 菊田弘輝 |
028 | 集落居住小委員会 佐久間康富 |
029 | 土壁の「柔」に 学ぶこと 山田宮土理 |
030 | エコハウスの教え 難波和彦 |
032 | 超長期的な視点と批評性 能作文徳×中川純×難波和彦 |