2020-11月号 NOVEMBER

特集= 特集11 建築文化遺産

―未来へのまなざし
11 Architectural Cultural Heritage: Gaze for the Future

 

特集11 建築文化遺産―未来へのまなざし

2019年、文化遺産は大きな節目を迎えた。茜色に染まるパリの空のもと、ノートルダム大聖堂は焼け落ちた。4月15日のことである。その半年後の10月31日の深夜、首里城は正殿を含む6棟がほぼ全焼した。遠く離れた2つの場所で同じ年に起こった火災は衝撃的なニュースで、その喪失に多くの人々が心を痛めた。同時に人びとから両文化遺産の復興のための多くの寄付が寄せられ、文化遺産のもつ求心力の強さも再確認され、その存在意義の大きさが示された。
 奇しくも同じ年、日本では文化遺産が転機を迎えた。改正された文化財保護法の施行にともなって、これまでの「保存」から「活用」に軸足を移す方針が強く打ち出され、文化財の活用に舵が切られつつある。
 今日、奈良少年刑務所(重要文化財)のホテルとしての活用に代表されるように新たな試みも進んでいるが、端島(軍艦島)のように、既存の保存の枠組みの想定を超える文化遺産も増えつつあり、「保存」においても課題に直面している。文化遺産に携わる専門家は建築史のみならず、構造・環境・設計の各分野の協同で文化遺産の継承に励んでいる。加えて美術史学・都市計画学・文化資源学・観光学、さらには情報工学などの諸分野の知によって文化遺産は支えられている。
 また遺跡では復元建物が建てられているが、過日、焼失した首里城も沖縄のシンボルであったことは疑いない。いっぽうで名古屋城天守の復元の問題では、現代建築であるにもかかわらず、バリアフリーの軽視をはじめ、あたかも「歴史的建造物」であるかのように誤読され、社会的にも議論を巻き起こしている。
 本特集では文化遺産について、美術史学・文化資源学・観光学・社会学などの関連分野からの批判的検討も含め、将来へ向けた現状の取り組み、警鐘を鳴らすべき点を描き出すことで、過去・現在・未来を通観する建築文化遺産に対するひとつの視座を示したい。

[海野聡・長谷川香]

[目次]

建築×テック 10
000フード×テック
食分野で起こっていることに学ぶ 安井謙介

002

特集11 建築文化遺産―未来へのまなざし
Architectural Cultural Heritage: Gaze for the Future

プロローグ
003論考1
建築文化遺産の現状と誤解 海野聡

第1部:建築文化遺産の立ち位置
004論考2
建築文化遺産から捉える社会 荻野昌弘
007論考3
文化遺産研究から見た建築文化遺産 松田陽
010論考4
美術工芸からみた建築文化遺産のための
保存・修理 久保智康
013論考5
観光は建築文化遺産に危機をもたらすのか 
田代亜紀子

第2部:建築文化遺産の実践
016論考6
歴史まちづくりの推進による建築文化遺産の
活用 石川啓貴
019論考7
建築文化遺産と構造補強技術 腰原幹雄
022論考8
本物を遺す文化財修理 小林裕幸
025取材
文化遺産の運営の最前線 廣岡太郎×渡辺巌×石井芳明

第3部:建築文化遺産の未来
028座談
文化遺産の未来へのまなざし 矢野和之×西村幸夫×小林牧×マルティネス・アレハンドロ×海野聡

エピローグ
036論考9
特集のその先に 海野聡

学会発 09
037海洋建築ネットワークの構築と
津波防災への取り組み 藤田謙一

海外で働く、海外で学ぶ 18
038カンボジアにおける
教育・研究とクリエイティブビジネスの融合 奥田知宏

海外で働く、海外で学ぶ 19
039ケベックの建築家の奮闘 椚座基道

歴史的建造物にみる建築の拡張と縮退 10
040近代に翻弄された北京の伝統建築、雑院の再構成 
池上碧

動いている建築 09
041塔の家―54歳の家 東利恵

建築をひろげる教育のいま 11
042教室をわすれた先生は 中谷礼仁

特集をめぐって 11
044建築的時間の4層構造 難波和彦

建築討論アフタートーク 11
046地域文脈の創造的読解と歴史調査の重要性 中島伸×海野聡×難波和彦

ポスト・アルベルティ・パラダイムの建築表現 09
047漫画家は物語の断面を切る 髙橋庸文

素材・材料、経年劣化・美化 08
048歴史的建造物の
古色と模擬―素材を生かす美意識 是澤紀子