写真:津田直、建築ストック(福岡県八女市)
2020-12月号 DECEMBER
特集12 建築ストック社会の到来とその先にみえるもの
わが国には大量の建築ストックがあり約半分は個人所有で残りは公共と民間企業所有資産である。いずれも大量であるとともに、人口減少を背景とした社会情勢の中では総量の過多や老朽化などの課題を抱えている。とりわけ個人の総住宅数は6,240万7千戸(2018年総務省調査)にのぼり、すでに世帯数を大きく上回っている。またこのような状況下においても建築ストックは年々増加しており、にわかに建て替えることのできない不動産においてはその高齢化などが進展している。高齢化自体は問題ではなくむしろ建物および不動産をより高度に長期間活用するニーズが高まっていると考えられる。
首都圏など一部の都市部では容積率緩和などに伴う再開発が進展している。また相続に伴う個人の住宅の建て替えなど、建築ストックの新陳代謝も一定の割合で進展している。しかしながら、建て替えや再開発などが適用されず現状維持を選択せざるをえないストックが大量に存在することも認識する必要がある。中小オフィスビルや密集市街地における木造住宅あるいは老朽化した団地や公共施設などにその可能性があるが、その傾向は都会だけでなく周辺地域や地方も同様である。
本特集前半では、建築ストックの寿命などに関する基礎的な動向を示唆した論考、GISを活用した建築ストックの長期的かつ面的な動向に関する論考などを紹介するとともに、建築ストックの将来をテーマに、そのさまざまな可能性を討議した座談会を紹介する。後半ではストック社会に対応した建築の長寿命化、再生、減築あるいは現存建物を上手に活用した最新事例を紹介する。特に各事例においては個々の建物のビフォア・アフターではなく、中核を担ったプロデューサー的人物や組織・法人、あるいは事業スキームなどに着目し、既存ストック活用を支えるソフト面での取り組みを探った。どの事例も建築ストックの"今"をとらえ、また〝その先〟を見据えたものであり、一連の取り組みは、今後も継続あるいは次世代に継承され、地域や街区に根差していくものである。またこれらの取り組みを参考とすれば、他の地域や街区、建物群にも応用できると考える。
高度成長期やバブル期を経て今後さらに成熟化していく日本社会においては、大量の建築ストックとさらに長く上手につきあっていくことが一層求められていくものと思料する。
[板谷敏正、加藤耕一、讃岐亮、高口洋人、宮原真美子]
[目次]
000 | ドローンを活用した 建築ストックのデジタル化 板谷敏正 |
002 | 特集12 建築ストック社会の到来とその先にみえるもの |
003 | 論考1 建物の寿命と価値 小松幸夫 |
007 | 論考2 データからみる都市におけるストックの変遷と新陳代謝の状況について 石原健司 |
009 | 論考3 行政情報から概観する人と住宅の定量的関係 長谷川普一 |
011 | 座談 建築ストック社会の到来とその先にみえるもの 浅見泰司×中川雅之×松村秀一 |
017 | 論考4 リファイニング建築のこれまでとこれから 青木茂 |
019 | 取材1 身の丈に合った負担と施設を次世代に引き継ぐ―FM先進県・青森の現在地 駒井裕民 |
022 | 取材2 経営資産を見極めて風景をつくる ―コンサルに頼らない公民連携の試み 川口義洋 |
025 | 取材3 九州の小さな自治体の挑戦―建築ストックと ヒト・モノ・コトのシームレスな関係 江副直樹+長谷川繁 |
029 | 論考5 タウンマネジメントによる市街地の再生 國廣純子 |
031 | 取材4 消滅可能性都市を持続発展都市に 原島克典+片山裕貴+小澤丈博+横田雅彦 |
033 | 論考6 既存オフィスビルの資産価値向上の取り組み―テナント目線の改修・改善と米国のビル認証取得 瀬川浩平 |
035 | 取材5 ビレッジハウスが取り組んだ10万6千戸の 団地再生と利活用 岩元龍彦 |
037 | 縮小社会における都市・建築の在り方 検討特別研究委員会 田村誠邦 |
038 | 都市の〈隙間〉から まちをつくろう!―ドイツ・ライプツィヒ からの報告 大谷悠 |
039 | サンフランシスコの生活 堀越和宜 |
040 | 歴史的建造物の再生―縮退時代における 価値の拡張 津村泰範 |
041 | 蟻鱒鳶ル 岡啓輔 |
042 | 東京理科大学理工学部建築学科における建築環境工学分野の教育 高瀬幸造+吉澤望 |
044 | リノベーション的デザイン論 難波和彦 |
046 | 町場のフォークロアを 語り継ぐ 川井操×板谷敏正×難波和彦 |
047 | 「価値のない住宅」を創造の契機として 岩瀬諒子 |
048 | 材料の劣化を コントロールしてつくる超微細な孔のデザイン ―構造色によるインクレス印刷手法としてのOM技術 イーサン・シバニア+伊藤真陽 |