写真:レンガ、木、藁, 2021
© Gottingham Image courtesy of AIJ and
Studio Xxingham
2021-2月号 FEBRUARY
特集14 建築の豊かさを問い直す―ローコスト建築の諸相
現代日本では、人口減少や空き家の増加、経済の停滞の影響を受けながら、多くの建築家たちが低予算の建築にも前向きに取り組んでいる。設計上の制約を逆手に取ったアイデア、安価な材料の組み合わせの妙、身の回りの資源を用いたブリコラージュ、貧しさのアイロニー的な表現を駆使し、厳しい予算でも新鮮な建築のあり方が追求されている。しかし、建築の長寿命化・高性能化とストックの充実が求められる今日では、新たに建築を建てることの是非もかつてなく問われている。このようななかで、ローコスト建築を建て続ける意味を根本から考える必要があるだろう。
そもそも、ローコストであることは近代建築の根本と密接に関わっている。第一次世界大戦前後、ヨーロッパのモダニストたちは建築生産と計画学の観点からローコスト住宅の大量生産を目論みた。そして、その即物的な表現は、レス・イズ・モアやモア・ウィズ・レスといった「レス = 少なさ」を肯定する美学や技術観に結びついた。「成長の限界」の警鐘が鳴らされた1970年代以降は、エコロジーの観点から省資源を突き詰めたローコスト建築も生まれた。その後も、戦災や天災、経済危機が訪れるごとに、建築家たちは切り詰める、使い倒す、諦める、といった切実な実践を通じて新しい時代を切り開くヒントを掴み、社会と結びついたローコスト建築を提案してきた。「Small Scale Big Change」展(MoMA、 2010)以降に活発化したソーシャル・エンゲージド・デザインの世界的流行は、その最新例と言えるだろう。
生産、計画、技術、美学、社会性。一言にローコスト建築といっても、その背後にある意図は多様であり、異なるチャレンジが複雑に絡み合っている。本特集では、近代から現代に至るまでのローコスト建築を再考し、その諸相について考えたい。これは、成熟を迎え、縮退時代とも呼ばれる今日の日本において、建築の豊かさとは何かを問い直す試みである。
[岩元真明、川島範久、能作文徳]
[目次]
000 | クラウドファンディングを 活用した不動産の開発および再生 板谷敏正 |
002 | 特集14 建築の豊かさを問い直す |
003 | 取材 経済合理性・物質性・美学―「貧しさ」から 建築の可能性を考える 石山修武 |
007 | 論考1 心地よい居場所 深澤直人 |
009 | 論考2 そのローコストは、何を根拠にしているのか? ―実験住宅プロジェクトPREVIの今日的意義 連勇太朗 |
011 | 論考3 新しいスタンダード―戦争で荒廃した フィンランドはいかにして困難を好機に変えたか フィリップ・ティドウェル |
013 | 論考4 アルド・ロッシの"貧しさ、侘しさ" 片桐悠自 |
015 | 論考5 ラカトン&ヴァッサルとアフリカ 伊藤維 |
017 | 論考6 ルーラルスタジオとフロント・ポーチ・ イニシアチブ―オーバーン大学における 住宅アフォーダビリティ研究の方法 ベッツィー・ファレル・ガルシア+エミリー・マクグローン+ マッケンジー・スタッグ |
020 | 論考7 ベトナム現代建築における貧しさの美学 五十嵐太郎 |
022 | 論考8 発展の「美学」、承認の「美学」 庄ゆた夏 |
024 | シェル・空間構造運営委員会 川口健一 |
025 | 原住民集落と 工業化建築 永岡武人 |
026 | 現代のミンガに学ぶ―漁村チャマンガから 両川厚輝 |
027 | 湘南工科大学における新教育プログラム 隈裕子 |
029 | ブリコラージュとしての ローコスト・デザイン 難波和彦 |
031 | 自炊のように作る、 賄いのように作る 笠置秀紀×岩元真明×難波和彦 |
032 | 素材としての アルミの映え 畔柳昭雄 |