写真:圧倒的な防潮堤の工事, 2021
© Gottingham Image courtesy of AIJ and
Studio Xxingham

2021-3月号 MARCH

特集= 特集15 復興の10年

―日本建築学会・土木学会 共同編集
15 The Road to Reconstruction 10 Years Out: Joint Editing by Architectural Institute of Japan and Japan Society of Civil Engineers

 

特集15 復興の10年 ―日本建築学会・土木学会 共同編集

2011年3月11日に東北を中心に未曾有の災害をもたらした東北地方太平洋沖地震の発生から10年が経とうとしている。東日本大震災と呼ばれる一連の災害に対し、10年間で30兆円を越える復興予算が投入され、災害公営住宅の整備や復興まちづくり事業、海岸対策や復興道路・復興支援道路などの土木事業は、完成率100%とされるものが多くなってきた。一方で、東京電力福島第一原子力発電所のメルトダウンに起因する汚染土壌や処理水問題、長期避難者の帰還問題など中長期的な課題は山積している。
 この10年の復興事業においては、ライフライン/インフラの復旧復興を担う土木の関係者と、建築や生業を含む生活再建を担う建築の関係者が協働してこれにあたってきた。本特集は、10年を節目に一度立ち止まり、復興の道程から反省点を見出し、建築・土木が連携してよりよい復興を目指すこれからの10年、あるいは次なる災害復興に取り組む契機として、日本建築学会と土木学会が共同で編集したものである。
 東日本大震災は、被災三県の主要な災害原因が極めて稀な頻度の超巨⼤津波であったこと、⾮常に広域にわたる沿岸地域が、同時多発的に被害を受けたこと、被害が施設やインフラ、家屋などにとどまらず多様かつ複合的で、いわば地域、都市、集落(コミュニティ)といった住民の日常の場そのものが損壊したこと、全国的に少⼦⾼齢化、人口減少にともなう地域の持続性の問題が顕在化するなかで、とくに弱体化が懸念される中⼩都市および漁村農村地域が甚⼤な被害を受けたことなどの被災特性により、津波被害からの復興は、過去に経験したことのないものとなった。
 現在、東北被災地の各地域では、津波から命を守るためのさまざまな努力や工夫によって、より安全度の高い、津波災害に強い構造の新たなまちの基盤が形成されつつある。
 一方、本質的な意味での被災地の「復興」はどこまで進んでいるだろうか。被災者の暮らしや生活・コミュニティ、農業・漁業・二次産業を含めた東北被災地の生業、まちの賑わいは戻ってきているだろうか。また、復興初動期の構想・計画・実施の各段階でもっと考慮すべきことはなかっただろうか。そして、未曽有の原子力複合災害により帰還困難区域を抱えた福島の復興・再生の課題と挑戦、これまで国を挙げて推進された復興事業・復興まちづくりの成果と課題について、土木と建築の専門領域を越えて、復興に携わる多様な関係者間で広く共有できているだろうか。
 本特集では、「10年経過した今も東北被災地の復興は、道半ばである」という共通認識に立脚し、「安全」、「生活」、「生業」などの観点から「復興」の枠組みと思想を総括し、次なる災害復興への糧として、土木・建築分野が扱う「時間」と「空間」、「人」や「地域」に根差した復興のあり方を再考したい。

[朝川剛、加藤耕一、倉原義之介、高口洋人(建築雑誌編集委員長)、佃悠(ゲストエディター)、中居楓子、
長澤夏子、羽藤英二(土木学会誌編集委員長)、増田幸宏、松永昭吾、宮原真美子、村上亮]

[目次]

000年表
東日本大震災 被災三県 復興の十年 

002

特集15 復興の10年
―日本建築学会・土木学会 共同編集
The Road to Reconstruction 10 Years Out: Joint Editing
by Architectural Institute of Japan and Japan Society of
Civil Engineers

第1部:復興の10年
003鼎談
復興の10年間の歩み―学会の果たした役割と
今後の課題 家田仁×石川幹子×竹脇出
007座談1
建築と土木の復興 
貝島桃代×佐藤愼司×内藤廣×三宅諭
013対談
危機のなかの領域史―小さなインフラを見直す
多段階的なアプローチ 伊藤毅×北河大次郎
017座談2
土木の復興 今後に生かす東日本大震災復興の
反省点―構想・計画・実施の各局面
奥村誠×岸井隆幸×中井検裕×柄谷友香
023寄稿
若者はどう震災と向き合ったのか
伊藤幹、白柳洋俊、濵岡恭太、掛本啓太、田中惇敏、今野悟、
鈴木悠也、菊池義浩、木村奈央、河野成実、橋本慎太郎、茂木敬、
小松大輝、安彦大樹、高橋茂幸、安部遥香
027後記
若手編集委員は、どう震災特集に取り組んだか

第2部:今と向き合い、人に寄り添う
029論考1
福島の復興計画の課題 鈴木浩
031論考2
福島の復興に向けた総合的な検証と原子力災害の
特質に即した法制度と国家行政組織の必要性 川﨑興太
033論考3
復興資源となる木造仮設住宅供給システムの
可能性―東日本大震災後の福島県の
移設再利用事例を通して 滑田崇志+浦部智義
035論考4
復興と子どもの居場所―子ども参加と
まちづくり 吉川恭平
037論考5
経路依存する復興、孤立した被災者支援 菅野拓
039論考6
大規模災害後のすまい方の選択 井本佐保里

動いている建築 12
041外なる変化と内なる変容 松川昌平

海外で働く、海外で学ぶ 26
042ボーダーレスに
流れるままに 宮﨑慎司

海外で働く、海外で学ぶ 27
043アスプルンド夏の
家からの学び―都市が田舎とつながるとき 平尾しえな

歴史的建造物にみる建築の拡張と縮退 13
044建築の
孤独と復活 荒木牧人

素材・材料、経年劣化・美化 11
045コンクリートの
表情を残す 濱崎仁

特集をめぐって 15
0463.11からの学び 難波和彦

建築討論アフタートーク 15
048福島、風景と注釈 
青井哲人