2021-4月号 APRIL

特集= 特集16 デザインと権利


16 Design and Intellectual Property Rights

 

特集16 デザインと権利

権利を巡る状況は時代と共に変化している。権利という言葉が指し示す内容も、変化を免れない。コピーライトとは、元々は書籍業者の複製独占のために考案された権利だったが、やがて原案創作者のオリジナルなアイディアを保護する権利へと読み替えられていった。
 近代において、オリジナリティ/原作者性は建築デザインにおいても重視されてきた。「新しい」「唯一無二の」アイディアであるかどうかは、近現代における建築作品評価の指標のひとつであった。一方、アプロプリエーションはあらゆる表現において常に行われており、新しい表現の推進力ともなってきた。建築意匠においても、デザイン上の翻案や引用と純粋にオリジナルなアイディア(そのようなものがあるとすれば)を区別することは難しい。
 時代の変化と共に、既存の著作権制度に対してもさまざまな試みがみられるようになる。1980年代には、コンピュータソフトウェアの共有を目指したコピーレフト運動が起こった。2000年代以降は、作品利用の条件を複数設定したクリエイティブ・コモンズ・ライセンスが国際的に浸透してきた。こうした動きは、「デジタル・ターン」を経て、ますます無視できないものになりつつある。マス・カスタマイゼーションを可能にする技術の転回を背景に、唯一無二であったはずの「オリジナリティ」の意味も揺らぎつつある。
 他方で、創作者の権利を保護する動きも進んでいる。2020年4月には、改正された意匠法が施行され、建築デザインも保護の対象に拡大された。
 建築設計・施工における権利保護は、職能によってその範囲が異なっている。そもそも、建築はさまざまな職能の専門知と技術の集合体である。また近年は特に、建築デザインの領域は情報や流通などのインフラ設計にまで広がっている。オリジナリティの複合的な総体として、これまで語られることの少なかった領域における権利を捉え直す必要もあるだろう。
 「権利」とは守るべきものであると考えがちだが、それだけではない。権利を適切に守ると同時に、他者に開き、共有していくことの意義も積極的に考えていくべきである。
 本特集では、法制度、意匠設計、建築の継承、技術、オリジナリティと模倣、教育といった複数の観点から、建築に関わるデザインと権利を巡る問題の現在と未来を考えたい。

[岩瀬諒子、岡本正、加藤耕一、浜田英明、藤本貴子、吉村靖孝]

[目次]

建築×テック14
000スポーツ×テック
スポーツ分野で起こっていることに学ぶ 安井謙介 

002

特集16 デザインと権利
Design and Intellectual Property Rights

003取材1
建築と著作権を巡るさまざまな問題点 桑野雄一郎
007論考1
権利を獲て開く 吉村靖孝
009座談1
建築家の表現と権利 芦沢啓治×乾久美子×水野祐
015取材2
建築表現の継承と権利 橋本功

学会発 13
018建築アーカイブズ小委員会
―記録のパラダイムシフトに向けて 齋藤歩
019論考2
空間デザインは誰のモノか?
―改正意匠法から探る 尾谷恒治
020論考3
建築構造における権利の意識 金箱温春
022座談2
エンジニアリングと権利 秋吉浩気×中川純×渡邉竜一
028論考4
西洋の様式建築におけるデザインの共有 中島智章
030論考5
山寨建築とは何か?―中国現代建築における
コピー文化の蔓延と批判 市川紘司
032座談3
建築教育における模倣・参照
―日本・アメリカの現場から 赤松佳珠子×阿部仁史×古谷誠章

海外で働く、海外で学ぶ 28
038フランスのゴシック教会堂調査について思い出すこと 嶋﨑礼

海外で働く、海外で学ぶ 29
039遠投される資本とクラフトマンシップをつなぐ公共芸術 津川恵理

歴史的建造物にみる建築の拡張と縮退 14
040青森県庁舎における減築の取り組みについて 江戸将聖

動いている建築 13
041作業は続くよ、どこまでも 岩﨑美佐子

建築をひろげる教育のいま 15
042ワークショップを通した建築の学び 堤仁美

特集をめぐって 16
044MUJIHOUSEの意匠権 難波和彦

建築討論アフタートーク 16
046大工職人のテクノロジー 山田憲明

ポスト・アルベルティ・パラダイムの建築表現 12
047映画のなかの代理鑑賞者 瀬尾憲司

素材・材料、経年劣化・美化 12
048木の家に長く大切に住んでもらうために 松井匠