写真:Untitled (A Plan/An Order #49–63), 2021
© Gottingham Image courtesy of AIJ and
Studio Xxingham
2021-7月号 JULY
特集19 不確実な時代のプレ・デザイン 前編―建築的課題に対する企画
実現すべき将来像が明らかであった拡大の時代には、ビルディングタイプごとに設計要件が整理され、建築資料と対応づけて蓄積され、質の高い建築を効率的に普及することにつながった。しかし2000年代に入り、人口減少と高齢化が進行する縮小期になり、同じような施設をつくればよいというわけにいかなくなった。つくるべきかの議論から始まり、何をどのようにつくるかという設計要件の整理は個別の対応が迫られている。特に、地域の課題解決が期待される公共的な機能をもつ建築において重要性が高い。近年の公共プロジェクトでは、PFI やPPPといった民間資金や民間のマネージメント力が活用され、反対に、民間プロジェクトにも公共的機能や場が求められるなど、官民問わず多彩な公共的空間の整備が期待される。
建築計画学者・小野田泰明は著書『プレ・デザインの思想』のなかで、映画制作を例に挙げ、多領域を束ねながらひとつの作品をつくり出す映画監督にあたる建築家に対して、実際の空間の使われ方を調査しその論理を理解する脚本制作にあたる役割を建築設計におけるプレ・デザインと位置付け、その重要性を指摘している。一般に建築設計(特に、公共建築)では、社会のニーズを元に、面積表や必要諸室などのファンクション(機能)と、運営・管理などのシステムに置き換え、要求水準書としてまとめられ発注される。しかし、現実は、他自治体が実施した類似施設の要求水準書を雛形に作成されてしまうことが多いという実情がある。
本来、多様化・高度化する社会において、どのように社会的ニーズを捉えるのかという建築的課題の発見や、いかにプロジェクト要件としてまとめられるのかという建築的課題の実践における、建築家や建築計画学を交えた議論と創造性こそが重要である。建築を生業とする我々には、それぞれの地域課題に対して"どのような公共的建築が必要なのか" "どのように整備・運営されるのか"、言い換えれば、建築的課題に対する企画力(構想力)と、設計・施工・運営関連の発注力が求められている。本特集では、7月号で"建築的課題に対する企画"、8月号で"設計・施工・運営関連の発注"を取り上げ、プレ・デザインの視点から建築の社会的構築力を検証してみたい。
[讃岐亮、高口洋人、長澤夏子、宮原真美子]
[目次]
000 | クラウドサービスが支える 建設現場の生産性改革 板谷敏正 |
002 | 特集19 不確実な時代のプレ・デザイン 前編 |
003 | 座談 なぜアオーレ長岡は今も先駆的な事例なのか ―長く大切にされる公共建築におけるプレ・ デザインの重要性 小野田泰明×古谷誠章×森民夫 |
008 | 論考1 縮小する時代の公共施設再編計画 西野辰哉 |
010 | 論考2 ワークプレイスのエビデンス・ベースド・ デザイン 仲隆介 |
012 | 事例1 市民ギャラリーの計画を見直し地域を取り込む―金沢21世紀美術館の計画段階から運営まで 鷲田めるろ |
014 | 事例2 公道を挟む施設配置で「パブリック」を仕掛ける ―広がり続ける佛子園の取り組み 村岡裕×寺田誠 |
017 | 事例3 図書館の運営オペレーションから 施設デザインを考える―中心市街地の にぎわい創出に取り組む宮崎・都城市 横山晢英×小牧誠 |
020 | 事例4 市場原理から公共施設を捉え直す ―岩手・紫波町の試み 鎌田千市 |
023 | 地球における建築存在意義を問う、 地球環境委員会 糸長浩司 |
024 | コラボレーション 寺本健一 |
025 | ニューヨーク近代美術館(MoMA)における「近代」と その拡張 戸室太一 |
026 | 地域社会圏に学ぶ 辻琢磨 |
028 | 「住居No.1共生住居」は どのように変化していったか 内藤廣 |
029 | 建築死生学 今本啓一 |
030 | プログラム論再考 前編 難波和彦 |
032 | 終わり方から考える 建築デザイン 小見山陽介 |