写真:地層の先にある闇, Untitled (The Strata #92), 2021
© Gottingham Image courtesy of AIJ and
Studio Xxingham

2021-10月号 OCTOBER

特集= 特集22 人新世の建築・都市論

―SDGs、コモンズ、脱成長をめぐって
22 Architecture and Urbanism in the Anthropocene: On SDGs, Commons, and Degrowth

 

特集22 人新世の建築・都市論―SDGs、コモンズ、脱成長をめぐって

人類の諸活動が地球環境や生態系に甚大な影響を与えている。産業革命以降、人類は化石燃料の使用により膨大な二酸化炭素を排出し、コンクリートやプラスチックなどの人工物を大量に生産した。そのしっぺ返しのように100年に一度の異常気象が毎年のように各地で起き、マイクロプラスチックが海洋汚染を引き起こし、人間の生存を脅かしている。科学者のパウル・クルッツェンは、1万年前頃から始まった人間にとって過ごしやすい「完新世」が終わりを告げ、地球は新たな地質学的年代「人新世」に突入しつつあるとした。
 惑星規模の危機的状況に対して産業革命以降の資源を収奪する社会システムや政治体制の転換が求められている。現在国連はSDGs(持続可能な開発目標)を掲げ、各国の政府や大企業がさまざまな取り組みを推進している。SDGsは商品やサービスの消費促進のキャンペーンではなく、先進国と発展途上国、ジェンダー、人間とその他の生物などのさまざまな非対称な関係を是正するためにある。SDGsの取り組みに対する多角的な検証と批評が求められる。
 建築分野では以前から省エネルギーの取り組みを行ってきており、高断熱・高気密の建物が増えてきている。エネルギー消費量や二酸化炭素排出量削減をさらに進めなくてはいけないのは当然のことであろう。しかし日本のGDPの1割近くを占めている建設産業の主な関心は、いかにサステイナブルに「建てる」かにあり、建設すること自体に疑問を投げかけるものではない。資本主義の内側では建築は経済成長の道具になってしまう危険性を孕んでいる。
 これに対し、市場原理による資源の収奪を繰り返すのではなく、人々が共同で資源を自治管理するコモンズ(共有地・入会地)が注目されており、まちづくりや都市農村交流などでコモンズの実践が各地で行われている。また市民電力や協同組合が太陽光などの再生可能エネルギーの共同管理を行う分散的で開放的な技術も進められつつある。このようなさまざまなボトムアップの実践が連帯し、生態系を含めた生活圏をつくりだす建築の未来が描けないだろうか。
 建築や都市のあり方は地球環境のキャパシティと人間の生活に深く関わっている。従来の建築のつくり方や人々の暮らし方そのものが変わらなければならないのではないか。そのためには歴史を踏まえた未来へのヴィジョンに加え、具体的な実践が求められる。本特集の第1部では近代史や地球史から得られる新たな建築や都市のヴィジョン、第2部ではSDGsに対する検証と批判および近代以降失われつつある伝統知に着目したコモンズ再構築の実践、第3部では日本建築学会の建築SDGs宣言の理念、そして具体的な働き方、マテリアル、エネルギーの観点から未来に向けた行動指針を紹介する。

[能作文徳、川島範久、中川純、鳴川肇、難波和彦、川久保俊(ゲストエディター)]

[目次]

建築×テック 20
000法規×テック
建築確認申請分野で起こっていることに学ぶ 安井謙介

002

特集22 人新世の建築・都市論
―SDGs、コモンズ、脱成長をめぐって
Architecture and Urbanism in the Anthropocene:
On SDGs, Commons, and Degrowth

第1部:地球史・近代史からのヴィジョン
004座談1
Over the Anthropocene
―脱成長コミュニズム、超都市、生環境構築史 
斎藤幸平×藤村龍至×松田法子
010論考1
鋼の構築様式エクストラクト 中谷礼仁
014論考2
協働する生き物たちの人新世 高橋さきの

第2部:コモンズの再構築
016座談2
Transforming Our World
―SDGsの検証・批判から見えてくるパースペクティブ
川久保俊×庄ゆた夏×塚本由晴×富樫英介
022論考3
伝統知を見直し、自然環境との正しい
向き合い方を取り戻す 高田宏臣

第3部:SDGsの理念と批判
026論考4
日本建築学会 SDGs宣言に至る経緯とこれから 
大塚彩美
027論考5
人新世とSDGs 外岡豊
028論考6
人新世・原発災害下におけるSDGsを超えた
処方箋のために 糸長浩司
030論考7
SDGsの視点に基づく日本建築学会における
活動の分類と見える化 川久保俊
032論考8
SDGsとビジネスの両立による新たな
価値の創造 神田純代
034論考9
建材の資源循環が目指すところ 清家剛
036論考10
脱炭素社会への変化の遅れを取り戻すために 竹内昌義

学会発 19
038日本建築学会SDGs宣言 伊香賀俊治

歴史的建造物にみる建築の拡張と縮退 20
039拡張でも縮退でもなく―宮崎県椎葉村・十根川
重要伝統的建造物群保存地区 甲斐眞后

海外で働く、海外で学ぶ 38
040人・社会・環境の
調整役として 石嶺隼

海外で働く、海外で学ぶ 39
041アジアで生きる私たち 中村衣里

建築をひろげる教育のいま 21
042地域とつながる
大学教育「宿場町のある大学」 樋口佳樹

特集をめぐって 22
044工業化住宅再考 難波和彦

建築討論アフタートーク 22
046これからの図書館 
小見山陽介

ポスト・アルベルティ・パラダイムの建築表現 15
047Architecture of the Media Age: In Between a Render and Photography ブラノブセキ・ヤン

素材・材料、経年劣化・美化 17
048災害と建築の
持続可能性 久田嘉章