2017-12月号 DECEMBER

特集= 次の未来に向けて


Toward the Next Future

 

特集 次の未来に向けて

「合宿」を開催しよう!

 人が集まるということが、こんなにも不思議なものだと実感したのは、この会誌編集委員会が始まったからにほかならない。本学会誌は明治20年から今日に至るまでの長期間にわたって発行を続けてきた、日本では最古の建築メディアであるが、ここ最近は、歴史・意匠的な観点からテーマを組み立てることが多くあったようである。大岡龍三編集委員長のもと、各分野を代表する研究者・専門家が集められたが、現在の編集委員会が発足するにあたっての問題意識は、建築学というフィールドの広さを再発見すること、構造や設備などの技術的な側面からも建築学をとらえ直すことなどであった。そうした方針に基づきメンバーが集められ、全体のテーマとして、「未来をつくる Creating Futures」が設定されたのだが、委員会の発足当初は、なかなか共有する言語も見つからず、議論が深まらない時期もあった。結果的に、2年のうちの半年くらいは、問題意識(=つまりは専門性)の近い委員が集まり、特集を組むことが多かったように思う。その後、委員たちも分野を超えた議論の進め方を覚え始め、これまで専門として接点の少なかった委員間でも活発な議論が展開されるようになった。そうなると、専門性に寄り添ったテーマだけでなく、より普遍的で重要なテーマが分野をまたぎながら議論される状況へと推移していった。それは必然的に、建築界の未来そのものを考えることになる。

 そうした横断的状況へと委員会が遷移していくにつれ、会誌に掲載されない、委員会のなかの議論そのものが、現在の建築界の課題と可能性を非常に巧みにすくい上げていたり、すぐには公開できないような秘匿性の高い情報を相互にやり取りすることで、その背後に潜む見えないメカニズムを浮き彫りにしていくことになる。委員会での議論そのものが、建築学の多様性と裾野の広さを反映する映し鏡のような状態となり、そうした委員会の議論から生まれてくる誌面も、多くの読者から反応をいただけるメディアへと成長していった。これまで出会わなかった人々が集まることで生まれるダイナミズムが、学問の現状を映し出し、その未来を検討するためのプラットホームへと成長していったのだ。

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 こうした本委員会もいつかは最終号を発刊することになる。当然のことながら、最終号を編集するにあたって、これまでの総括をする必要があった。その総括のためには、委員全員が集まる合宿が必要だと私は考えた。なぜ、合宿かというと、研究のために民俗学の文献を読み漁っていた10年ほど前、ある専門分野において非常に重要な会議が有馬温泉で開催された、という記事を目にした。その会議には、関連する研究者がほとんど集まり、温泉地で繰り広げられたわずか数日の議論が、その分野において今でも参照されるような重要な会議となった、というのだ。それ以来、私のなかでは、大勢の研究者が集まり、今後の指針となるような学術的会議を行うのであれば、必ず合宿(可能であれば、温泉地で)を開催しなければならない、という勝手な刷り込みが形成されてしまったのである。だから、最終号の今回も、忙しい委員の日程を調整し、是が非でも合宿を敢行せねば、という勝手な問題意識に突き動かされるようにして準備を始めた。そんな勝手な問題意識で忙しい委員の皆さんを巻き込んでしまったが、終わった後の反応が上々だったので、胸を撫で下ろしている。ちなみに、会場の選定だけで数カ月検討した記憶がある。

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 この合宿(=最終号の編集作業)を開催したからこそ、得られた成果がある。先述のとおり、委員会を重ねるごとに、分野を超えた議論が行われるようになってきたのだが、あくまで同じ特集号を担当する4〜5人のスケールであり、各分野の専門家が揃ったメンバー全体での議論とはならなかった。合宿は、朝から夜まで続いたのであるが、そのマネージメントについても、まちづくりのワークショップの専門家からの意見を取り入れ、効果的な議論とまとめができるような時間配分とグループ編成を行った。この合宿自体の設計にも、建築学の知見が活かされている、と言うと大げさだろうか。結果的には、議論のスケールを変化させることで、小規模の濃密な議論と、大規模の活発な意見交換とが両方とも実現できるような結果となった。この委員会でなければ集まれなかったようなメンバーがどのような議論を展開したのか、次頁からじっくりとご覧いただきたい。人が集まることの不可算的な効果が、この号を満たしていると期待している。

(川添善行)

[目次]

特集=次の未来に向けて

004川添善行
主旨

第1部 2016-17 特集・連載レビュー
006会誌編集委員
特集・連載レビュー(2016年1月号〜2017年12月号)

第2部 グループディスカッション
0161班:大岡龍三+大村紋子+土屋直子+羽鳥達也+前田昌弘
未来を規定するもの
0202班:大森晃彦+壁谷澤寿一+川添善行+夏目康子+宮田征門
基準とクリエイティビティ
0243班:いしまるあきこ+今井康博+西原直枝+藤田香織
未来へ
0284班:有岡三恵+北垣亮馬+小林光+谷川竜一
建築雑誌でやってきたこと→これから
0325班:高橋典之+戸田穣+中島伸+樋山恭助
過去、現在、未来

第3部 総括討論
036会誌編集委員
次の未来に向けて

連載

My History㉔
表紙裏 原広司
 小学校への通学路

近現代建築資料の世界 ㉓
002藤岡洋保
平林金吾資料

未来にココがあってほしいから 名建築を支える名オーナーたち ㉔
042マルコ・アントニオ・マルティネス
カトリック目黒教会(聖アンセルモ教会)

研究室探訪
043石川初
㊼慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス石川初研究室 地上学への研究
043真田純子
㊽東京工業大学真田研究室 石積み、伝統のその先へ

震災復興の転換点 ㉔
044中島伸
最終回 震災復興の転換点とは何だったのか

総括 次の未来に向けて
046大岡龍三