写真:Untitled (Safety Fence #30), 2021
© Gottingham Image courtesy of AIJ and
Studio Xxingham
撮影協力:千葉大学 平沢岳人研究室

2021-6月号 JUNE

特集= 特集18 建築生産をアップデートする


18 Updating Building Production in Japan

 

特集18 建築生産をアップデートする

ごくごく簡単に言えば、建築生産は、建築のつくり方のことである。単に建築を現場でつくりあげる作業を指す施工として捉えられることもあるが、「生産」という単語の意味合いからも社会・経済的な側面と関連しており、企画、設計、維持管理なども含めた建築空間を具現化しようとする一連の活動やプロセス、さらにはそれらの基盤となる社会システムも対象となる。つまり、私たちを取り巻く環境のもとでヒト、モノ、カネ、時間、情報・ノウハウなどの資源をやりくりしながら建築をリアルなものへ仕立て上げていく方法や仕組みのことであり、建築のやりようと言ってもよいであろう。
 我が国の建築のつくり方は、産業界において日々改善が図られ、絶え間なく変化を続けている。例えば、工業化技術の発展に伴って普及・定着してきたプレファブ住宅や、木造住宅生産において実に9割を超えるようなったプレカット工法、また情報化技術の変革により手書きからCAD、そしてBIMへ展開しようとしている建築設計。このような事例をあげたらきりがない。
 建築のつくり方を変えようとする力は、こうしたイノベーションの普及だけでなく、環境の変化にも備わっている。中でも現在直面している人口減少という社会構造の根本的な変化は、生産性の向上や人材不足の緩和・解消を求め、建築産業に強い力で働きかけている。
 事実、建築をつくる現場に目を向けると、従来の技術者や職人に必ずしも依存せず、これまでとは異なる多様な人材や新しい技術を用いて効率よくつくろうとする取り組みが目立つ。また、発注者の望む建築をより高い水準でより確実に実現できるように、施工以前から組織の役割、業務の内容や進め方などを改善し、プロジェクトの品質を高めようとする動きも活発だ。
 これらは今に始まったことではない。建築のつくり方は、建築にまつわる習慣などを踏まえながらも、常に着実にアップデートされてきている。筆者はそうした動きを見据えながら、近い将来の建築生産のすがたや若者や女性にとって魅力のある仕事のありようを描きだしていくことが重要なのではないかと考える。
 冒頭に示したように建築生産の対象とする範囲はすそ野が実に広い。そのため、すべてを取り上げることは難しいが、本特集では、建築生産のこれまでと現状に関する座談会・論考(第1部)とともに、建築をつくるプロセスを計画段階でのマネジメント(第2部)と施工(第3部)に分け、それぞれで特徴のある事例を可能な限り取り上げた。そして、この特集が、どのように建築生産をアップデートしてくことが望ましいのか、学生を含めて各分野の学会会員の皆さんと一緒に考えていくきっかけとなればと思う。次の時代の建築生産を担うだろう学生にもぜひ手に取ってもらいたい。

[石田航星(ゲストエディター)、川島範久、小見山陽介、角倉英明、高口洋人、坪沼一希、中川純、中川浩明、難波和彦]

[目次]

建築×テック16
000教育×テック
教育分野で起こっていることに学ぶ 安井謙介
002会長就任の挨拶
ウイズ・アフターコロナ時代における
建築界の新しい発展を目指して 田辺新一

004

特集18 建築生産をアップデートする
Updating Building Production in Japan

第1部:建築生産のこれまでと現在地
005座談
建築のつくり方の変化とこれから 
石岡宏晃×権藤智之×西野佐弥香
011論考1
ゼネコンによる建築生産・マネジメントの変化 金多隆
013論考2
伝統技能と職人のあり方と現在地 蟹澤宏剛
015論考3
建築生産における標準化とオーダーメイドの
建築部品 石田航星
017論考4
英国における工業化住宅再興の背景 小見山陽介

建築討論アフタートーク 18
019チャイニーズ・プレファブ 市川紘司×角倉英明×難波和彦

020論考5
戦後住宅生産史 概観 住宅生産の近代化と
「建築家」 青柳憲昌
022年表
戦後日本住宅構法史年表 谷繁玲央+長谷川敦大+冨士本学

第2部:建築プロジェクトの品質を高める
024事例1
国際化を背景にした日本の設計・
施工プロセスの孤立化 黒川めぐみ
025事例2
組織設計事務所におけるコストマネジメント 皆銭宏一
026事例3
プロジェクト・オリエンテッドなファサードに
おける部品・技術開発 石井久史
027事例4
BIMを活用した情報化生産システム 原英文
029事例5
プレカットの進化と今後の展望 北大路康信
030事例6
wallstatが変える工務店の木造設計 野辺公一

第3部:施工の担い手のダイバーシティを広げる
031事例7
ロボット施工の未来 竹中司
033事例8
急増する外国人労働者への対応 高木元也
034事例9
住まい手と共につくる 中田理恵
035事例10
BIMを活用した伝統構法木造の再生技術 奥村誠⼀
036事例11
美しい未来を丁寧につなぎ夢を叶える 廣作利香
037事例12
スポーツ科学の目線による新しい技能者育成・
技能伝承 後藤田中

学会発 15
038コロナと建築の力―建築学会の
人口問題・若手人材育成TFの活動 牧紀男

歴史的建造物にみる建築の拡張と縮退 16
039モダニズム建築の特質とは何か 松隈洋

海外で働く、海外で学ぶ 32
040素材を主題とした保存・
改修にみる建築空間の継承と更新 髙橋まり

海外で働く、海外で学ぶ 33
041ノルウェーで働く 出水文二

建築をひろげる教育のいま 17
042ここに、これから
どのような建築があるべきかを考える設計教育 田中智之

動いている建築 15
044daita2019-2021 山田紗子

素材・材料、経年劣化・美化 14
045街並みの毛羽立ち 
松島潤平

特集をめぐって 18
046構法と機能 難波和彦

ポスト・アルベルティ・パラダイムの建築表現 13
048エラーを機械の創意とみなす 銅銀一真